私がボイラーマンだ

3度の飯よりボイラー好き。ボイラーをこよなく愛する火力発電所勤務の変態ボイラーマンの日常を綴ったブログ

ボイラー設備について~過熱器~

過熱器とは

ボイラー内で燃料を燃焼させて給水を加熱することで発生した直後の蒸気は飽和蒸気と言って、水分を含んだ状態の蒸気になります。

この飽和蒸気を燃焼時に発生した高温排ガス等と熱交換させることでほとんど水分の無い過熱蒸気を作り出します。

この飽和蒸気を過熱するための伝熱配管群のことを過熱器と呼んでいます。

 

英語ではスーパーヒーター(Super Heater)と言うので、頭文字を取って「SH」と略されることが多いです。

 

過熱器の形式

排ガスの接触する方向によって向流式と並流式があります。

向流式は高温の排ガスに対して低温側の蒸気を向かい合わせの方向で熱交換させる方式です。

並流式は高温側の排ガスを低温側蒸気と同じ向きの方向で熱交換差させる方式です。

向流式と並流式では温度変化は下記のようになります。

これはエネルギー管理士等にも出てくる対数平均温度差というものを求める時に使う表です。

対数平均温度差の説明や計算式などは面倒なので端折りますが、ようは

「対数平均温度差が大きいほど熱効率は大きくなる」

ということです。

 

並流式は最も温度の高い状態の加熱媒体(排ガス)と最も温度の低い状態の冷却媒体(蒸気)がいきなり接触するので、加熱媒体は一気に温度が下がり、逆に冷却媒体は一気に温度が上がります。その後は熱交換量が少なくなり温度変化は拮抗します。

 

向流式は最も温度の高い状態の加熱媒体に対して最も温度の低い状態の冷却媒体は逆側から接触するため、表のように加熱媒体は徐々に温度が下がり、冷却媒体は徐々に温度が上がることで、お互いの温度変化はある程度一定の温度差を保ちます。

 

なので伝熱面積さえ確保できれば向流式の方が並流式よりも熱交換の効率はより高いということになります。

 

よって、通常熱交換させる過熱器には向流式が採用されることになりますが、一部例外があります。

 

 

最も上流(高温排ガスと接触する)側の過熱器は並流式

これは排ガスと過熱器の実際の配置の例になりますが、過熱器は1個だけではなく大抵2個以上配置されます。

これらは1次過熱器、2次過熱器、3次過熱器・・・と呼ばれ、

この時下流側の過熱器は向流式ですが、一番最初に排ガスと接触する最上段の過熱器は並流式が採用されることが多いです。

 

最上段の過熱器は最も温度の高い排ガスと熱交換する関係上、向流式だと上段配管の温度が高くなりすぎて高温腐食する恐れが高くなります。

なので、熱交換の効率は下がりますが並流式を採用して温度の低い蒸気を高温排ガスに接触させ上段側の温度を一気に落とすことによって過熱器の配管が高温腐食することを防止しています。

 

蒸気温度の制御方法

過熱器で蒸気の温度を上げる際、その温度を一定値にするために、水を過熱器入口側の蒸気に吹き掛ける方法を取ることが多いです。

 

この時、ただ過熱器出口の温度だけを見て制御しようとすると、過熱器入口蒸気温度への注水操作に対する出口温度までの応答性の時間遅れが大きく安定した温度制御をすることが出来ません。

よって、温度変化の応答が早い過熱器入口側の蒸気温度を注水弁により先行制御することで安定した温度制御を行えるようにしています。

入口側の蒸気温度変化値を見ながら出口温度を制御する。

このように制御対象の変化を見て設定値も変化させながら制御する方法を

カスケード制御(通称CAS)

と呼びます。

 

蒸気温度制御は蒸気の量によって設定値が変わる?

例えば蒸気温度を200℃にしたいなら、注水弁開度の設定値を200℃に設定することで蒸気温度を見ながら自動で開度操作し常に200℃に保とうとします。

このように普通何かの値を制御する際は常に一定の値にすることが多いですが、発電プラントの蒸気温度制御に関しては、常に一定値・・・という訳ではありません。

 

先ほどの説明で、蒸気温度は

過熱器入口側温度を見ながら出口温度を制御する

と言いましたが、更にこの出口温度というのは

蒸気流量の値によって出口温度の設定値が変わります。

 

ややこしくなってきましたね。

 

例を出して説明すると

蒸気量が100t/h出ている時の過熱器出口蒸気の温度設定値は400℃である。

しかし蒸気流量が75t/hになった時の過熱器出口蒸気の温度設定値は350℃となる。

更に蒸気流量が50t/hの時は過熱器出口蒸気の温度設定値は300℃となる。

といった感じです。

 

なぜわざわざ蒸気量によって設定温度を変える必要があるのでしょうか?

そのまま400℃で制御してはいけないのでしょうか?

 

答えは蒸気温度を制御する注水弁の開度にあります。

 

例えば先ほどの説明に付け加えて

蒸気量が100t/h出ている時の過熱器出口蒸気の温度設定値は400℃である。

また、この時の注水弁制御開度は通常20%前後である。

としましょう。

 

そしてこれが

蒸気流量が75t/hになった時の過熱器出口蒸気の温度設定値が400℃のまま。

であった場合、注水弁開度はどうなるでしょうか?

 

蒸気流量が減った(=熱量が減った)場合でも蒸気温度を400℃に保ちたいということは、注水弁開度がそのままでは蒸気温度がどんどん下がってしまうため注水量を減らそうとして開度を絞る動きをします。

 

更にこれが

蒸気流量が50t/hになった時の過熱器出口蒸気の温度設定値が400℃のまま。

であった場合、さらに注水弁は絞り方向に動くことになります。

 

すると蒸気量が100t/h出ている時に注水弁制御開度は通常20%前後であったので、蒸気流量が減って注水弁開度が絞られて0~10%未満と言ったような極低開度の状態になると弁のコントロール性が失われ温度制御がうまく機能しなくなる恐れが出てきてしまいます。

このように、通常運転で制御弁を使用する場合は一定以上の開度を確保しないと精密にコントロールできない恐れがあるので、注水弁による温度制御に異常が起こらないようにするために、蒸気流量が減少した場合は温度制御の設定値も下げることで常に制御弁が一定開度を確保できるようにしているわけです。

 

蒸気タービンが付属するボイラーで過熱器は必須

発電所にあるボイラーで作られた蒸気は最終的に蒸気タービンを回転させるエネルギーへ変換されますが、この時十分に蒸気の過熱度が取れていないとタービンの最終段(出口)付近で蒸気が水に戻った際、ドレンという蒸気が水に戻ったものが発生しそれがタービンで回転している羽と衝突し損傷させる原因となります。

 

よって発電所においては過熱器により蒸気を十分に過熱しておくことでドレンが発生することを防止することが最重要な役割となります。

 

ちなみに、大型の発電所では蒸気タービンで仕事をして温度の下がった蒸気をタービンの中段で取り出して、もう一度排ガスと熱交換し再度タービンへ戻すことで更に熱効率を上げる「再熱器」というものが設置されています。

 

再熱器の蒸気は低圧高温という少し特殊な条件なので、温度制御は過熱器の時のような注水ではなく、再熱器を通す蒸気と通さない蒸気を混ぜることで温度制御をする「バイパス制御」というものを採用することが多いです。

 

最後に

かなり久しぶりのボイラー記事になりました。

あまり頻度が多くないのは、正直こんな知識は他の専門記事読んだ方がよっぽど詳しいし正しいので、エンジニアでもない素人の私がドヤ顔で語ってるのもどうかと思ってるからです。(違ってても責任取れんし)

 

なのでどちらかというと見てる人の為、というよりかは自分の再確認用に書いてると言っても過言ではありません。

 

過熱器の制御はけっこう特殊で複雑なので、自分も調べて書きながら

「あ~確かにこんな感じだったな」

って感じで良い復習になりました。

 

今後はもう少し頻度を上げたいと思ってます(毎回言ってる気がする)