私がボイラーマンだ

3度の飯よりボイラー好き。ボイラーをこよなく愛する火力発電所勤務の変態ボイラーマンの日常を綴ったブログ

蒸気タービンの運用方法【起動編】

・蒸気タービンとは

火力発電所であれば必須の設備である蒸気タービンは、鉄製の風車のような羽が何枚も重なったような見た目をしており、ボイラーで発生した蒸気の熱エネルギーを利用して回転する設備です。

この回転エネルギーが軸(ロータ)を通して発電機に伝わって発電機の回転子が回転することで電磁誘導の法則により固定子側に電気が発生します。

 

蒸気タービンには衝動式や反動式、また復水式や抽気式など多種多様な種類が存在しますが、その運用方法についてはほぼ共通していると思われるので今回は起動方法について簡単に説明します。

 

・起動方法

①タービン油/冷却系統、ターニング装置起動操作

タービンの軸受けに潤滑油を送油するための潤滑油ポンプや主蒸気を制御する駆動弁に油を使用している場合は制御用油ポンプなどの運転もしておきます。

 

復水器を使用しているタービンの場合は復水器のチューブ側に冷却水を流すための冷却水ポンプも起動しておきます。

 

ターニング装置とは蒸気タービンの軸(ロータ)を機械的に強制回転させるための装置です。

タービンを起動するには先にボイラーの蒸気を発生させる必要がありますが、このボイラー昇温中にタービンが完全に停止したままだと、タービン内部に高温の熱が伝わった際にロータの上下に局所的な温度差が広がりロータが湾曲することで起動不可能になるようなトラブルとなります。

このトラブルを防止する為、ボイラー起動前からターニング装置を起動しタービンを低速回転させておくことでロータ内の温度バランスを一定に保ちます。

 

②グランド蒸気通気操作

タービンのロータが車室を貫通するグランド部分では、タービン内からの蒸気漏洩や外部空気吸引防止のために低圧の蒸気を利用します。

 

通常、ポンプなどの場合には焼き付き防止も兼ねてグランドパッキンで内部から少量の水が排出されていますが、蒸気タービンでは内部が真空であるのと高温高圧の蒸気が使用されている為ポンプのようなパッキンは使用できないので、代わりに外部からグランド用蒸気を流入させてタービン内の蒸気が外部へ漏洩するのを防いでいるという訳です。

 

このグランド蒸気をタービン内へ通気させることでタービン内に外部空気が流入しなくなる為、次の操作である真空確立操作を行えるようになります。

 

③復水器真空確立操作

復水器はタービンの後についている設備で、タービンで使った蒸気を冷却して水に戻して再びボイラーで使用する水にする(蒸気を水に戻すから復水という)所です。

 

タービンに蒸気を通気する前には、この復水器内を真空ポンプを使って真空にしなければなりません。

真空でない=中に空気がある=空気は非凝縮性ガスなので圧力を下げられない為、復水器内部の空気を全て外部に排出しておかないとタービンに蒸気を入れられません。

 

真空ポンプで復水器内が真空になった後は、タービンに流入した蒸気が冷却されて急激に凝縮することで真空が保たれるようになります。

 

④主蒸気条件確立操作

タービンには主蒸気を通気するために必要な圧力と温度が決められています。

タービンに通気した蒸気は低圧部に向かうにつれ仕事をすることで圧力・温度共に下がっていき、復水器近辺ではほぼ飽和温度域となるため、起動する際に通気する蒸気も十分な過熱度を取れるような条件とする必要があります。

 

この時の蒸気条件はタービンのロータ温度により「冷機条件」「暖機条件」などに分類され、基本的にロータ温度が低いほど蒸気条件も低めから、ロータ温度が高いほど蒸気条件も高めからの起動になります。

 

⑤タービン条件確認

蒸気がタービンを通気するのに十分な条件まで昇圧・昇温出来たらいよいよタービン通気操作を開始しますが、その前にタービン各所の状態に問題がないかを確認します。

 

タービン各所の監視項目としては「偏心」「軸振動」「ロータ伸び」「軸受メタル温度」などで、この数値がすべて起動に必要な規定値に収まっていることを確認します。

 

⑥タービン通気・ヒートソーク操作

タービン状態に問題無ければ蒸気を通気させます。

 

蒸気を入れだすとタービンの回転数が上がっていきますが、この時いきなり定格速度まで上げてしまうとロータ部が熱伸びして故障の原因となるので、ある程度の速度まで上がったタイミングでその速度を一定時間保持し暖機します。

これを「初期負荷ヒートソーク」と言い、暖機速度は一般的にタービン定格速度の30%程度が採用されることが多いです。

 

初期負荷ヒートソークはタービンが冷機運転する場合のみ行う操作で、すでにタービンロータが熱い状態からスタートする暖機運転の際にはヒートソークはスキップしても問題ありません。

 

場合によってはこの昇速前に蒸気加減弁を閉めて蒸気を遮断し、タービンを空転状態にし回転部と静止部の異音振動の有無を確認する「ラブチェック」と言う点検を行うことがあります。

これはターニングやヒートソーク時にロータが湾曲した状態で回転することで発生する「ラビング振動」がないかを確認する操作ですが必ずしも行うものではありません。

 

⑦昇速

初期負荷ヒートソークを規定時間行ってから、再度昇速操作を開始し、タービンに問題無ければここで定格回転数まで一気に上げます。

 

定格回転数まで昇速し終わったらここでも再度ヒートソークを行います。

 

このヒートソークは「定格負荷ヒートソーク」と呼ばれ、ここで異常が見られなければ、発電機の起動(励磁・同期)に移行します。

 

⑧負荷上昇

発電機が併入されたら電力を徐々に増やしていきますが、これと同時にタービンに流入する蒸気の圧力や温度も少しづつ上げていきます。

 

ここでも一気に上げ過ぎるとタービンのロータ部分に過大な熱応力が掛かり故障の原因に繋がる為、必ず既定の昇圧・昇温曲線に従って負荷を上げていく必要があります。

 

最後に蒸気が定格の圧力・温度に達したら終了です。

 

今年電験2種の勉強して初めて知ったのですが、この蒸気タービンの起動方法などは電験2種2次試験の論述でも出題されていますので、電験2種以上を目指す方は覚えておいて損は無い内容だと思います。