前回は起動方法についてでしたが、今回は起動後の通常運転中に蒸気タービンではどのような点に注意して運用しているかについて紹介します。
・巡視点検
⑴本体車室からの異音振動、蒸気漏洩の有無、伸び差値の異常の有無
⑵軸受部の異音振動の有無
⑶潤滑油量の確認
⑷主蒸気止弁、主蒸気加減弁からの蒸気漏洩の有無
⑸潤滑油、制御油圧力値の異常の有無
⑹潤滑油ポンプ、制御油ポンプの圧力値、異音振動の有無、配管破損漏洩の有無
⑺潤滑油、制御油にフィルタがある場合は差圧の有無
会社によって多少の違いはあると思いますが大体現場でタービンを点検する際は上記項目辺りを見ていると思います。
タービン以外の設備で例えるならポンプの点検項目に近いですね。
・DCS
中央監視室での監視項目もプラントによってだいぶ違いはあると思うので、今回はどのプラントでも共通しているタービンのインターロックに関する項目を上げていきます。
⑴タービン主蒸気温度
起動編でも説明しましたが、タービンに入る蒸気温度が低すぎると低圧段で飽和温度域となり湿り蒸気になることで水滴がタービン羽に激突することでエロージョンなどの損傷の原因となる為、規定値以下になるとインターロックでタービン停止となるのでそうならないよう制御する必要があります。
逆に、高温蒸気による材質の許容温度を超えた運転をしないよう、通常運転中は定格温度の+8℃以上にならないよう注意する必要もあります。(※定格蒸気温度566℃以下のタービンに限る)
規定では、定格の+8~14℃を超えた運転をする場合1年間で400時間以下、また14~28℃を超えた運転は1年間で80時間以下に収めなければなりません。
⑵タービン排気温度
排気温度が高すぎると、低圧段付近のケーシングに変形が生じることでアライメントが狂い異常振動が起こったり回転部と静止部が接触するトラブルが発生する恐れがるのでタービンインターロックにより停止が掛かります。
これは通常運用中よりは低負荷運転時の排気量が少ない運転を長時間続けた場合に起こりうるトラブルになります。
⑶タービン回転速度
タービンの回転速度は原則、定格速度の98~101%以内で運用し、理由なくこれを逸脱してはなりません。
タービンの回転数が高すぎるとロータ部に危険な遠心力を発生させ破損の原因となる為、定格速度の110%を超過した場合はインターロックでタービン停止となります。
⑷復水器真空度
タービンに関する監視対象の中では最も変動が大きい項目になります。
復水器には空冷式や水冷式などの種類がありますが、いずれにしても外気温が高い夏季には真空度が悪くなり冬季には良くなります。
真空度が悪くなると、排気容積流量が小さくなりタービン最終段の動翼周辺に渦流が発生することで蒸気の流れが乱れ、タービン動翼に掛かる振動応力が大きくなり破損の原因となるので、真空度極低にてタービントリップさせるインターロックが働きます。
反対に真空度が高すぎると、今度は蒸気流速が過大となり冷却配管に侵食を発生させることがあります(インターロックは無し)
よって真空度は高すぎず低すぎない一定の範囲で制御しなければなりません。
この真空度の制御には冷却水ポンプの台数を変えるオンオフ制御、インバータによる回転数を調整することによる流量制御、冷却塔がある場合はファンのオンオフ制御や回転数制御などにより行います。
⑸潤滑油/制御油圧力
潤滑油圧力に関してはタービン軸受の油膜が切れてしまい軸受やロータの損傷を防ぐため。
制御油圧力に関しては油圧低下により主蒸気加減弁の制御性の不具合を防ぐため、どちらの圧力も極低値まで下がった場合はタービントリップとなります。
⑹軸位置
スラスト軸受の損傷・摩耗や過大なスラスト力が掛かり軸受の変形等が起こるとタービンの軸位置が過度に移動することがあり、そうなると回転部と静止部が接触しタービンの損傷に繋がる為これを軸位置計により監視します。
⑺軸受軸振動
軸受部の振動値が高いと軸受本体や軸受台、取付ボルトのゆるみや破損、油膜切れによる損傷を防ぐためインターロックによりタービントリップとなります。
⑻軸受温度
タービン各所に取り付けられている軸受の温度が高いとメタルの軟化開始温度に到達しメタル損傷に継がる為、許容値を超えるとタービントリップとなります。
・最後に
上記の項目以外にもタービンの各所に圧力や温度計器が取り付けられており、一見すると監視対象も多く難しそうなイメージですが、通常運転中に多少変動があるのは主蒸気温度や真空度くらいで他の数値が変動することはあまり無い為、案外そこまで大変という訳でもありません。
・・・というかタービンの数値が変動した時=ほぼタービントリップに繋がるので監視どうこうの問題ですらありません。
私の経験したものでは
・潤滑油ポンプ故障による潤滑油極低
・冷却水ポンプ不具合による冷却水量低下→真空度悪化
があり、どちらも不具合発生後すぐにタービントリップとなっています。
普段変動が少ないので気にすることも無いタービンの監視項目ですが、逆に何かあった時はタービントリップと言った重大事故に繋がる可能性が非常に高いのでその時は覚悟が必要な設備です。