今週のお題「激レア体験」ということで、私がボイラーマン時代に経験した発電所の全停電事故のお話をします。
その日は特に落雷の恐れがあったとか、工場でトラブルがあったとか、そういった事は何もない極めて平和な一日でした。
時間は夜勤帯の深夜、私は現場を担当しており丁度担当時間が終わり中央操作室へ戻る所でした。
中央操作室へ戻るためにボイラー棟の階段を登っていると、急に現場が静かになりました。
そしてそのすぐ後に、蒸気を外へ逃すための大気放蒸菅と呼ばれる配管から大量の蒸気が噴き出してきたのです。
すぐに異常に気づき中央操作室へ直行すると、室内はいつもの明るさではなく非常灯だけが灯り薄暗くなっていました。
私に気づいた先輩は
電源落ちたわ。全停だね。
とやけに落ち着いていました。
全停電すると当然設備は全て止まり、やらなければならない操作はほとんどなくなるので、下手に設備が生き残るよりはむしろ安心だそうです。
発電所の必要最低限の電気はUPS電源と呼ばれる無停電電源装置により給電は継続されますが、それも数十分しか持ちません。
この電源は電気の確保と言うよりは安全にPC類をシャットダウンするための時間を稼ぐという思想のためだそうです。
なので発電所が全停電になった際にやらなくてはならないことは
①受電系統の電圧があるなら直ちに復旧し電源を回復させる
②タービンのターニング装置が運転しているか確認。していなければ手動で嵌合させる。
(ターニング装置とはタービンを低速で回転させる機器のことで、これが運転していないとタービンの軸が高温で湾曲して故障する恐れがある)
この2つを最優先で確認しこれが問題なければとりあえずOK
後は電源復旧次第、再び機器を動かしてボイラーの再起動を行います。
再起動時の注意として、ボイラーの水位が低下している場合は必ず給水を真っ先に行ってから点火作業に入ること。
ボイラーは急に停止した場合は炉内温度がまだ数百度あるため、ボイラー内の水はどんどん蒸発して無くなっていってしまうので再起動時にはこの水位を回復させることから始まります。
初めての発電所全停電で私自身はどうすれば良いかわからずかなり焦っていましたが、たまたま一緒に仕事していた先輩が試運転時代からこのプラントにおり全停電作業も行った経験がある人だったので助かりました。
落ち着いて私に全停時の対応方法を教えながら対処していくのを見て、
やはり経験があるのと無いのとでは違うなぁ
と感心しました。
ちなみに今回のこの事故の原因は、発電機の故障により発電機トリップとなった後、なぜか受電系統の遮断器が動作し全電源喪失したことによるものでした。
本来ならば起こるはずのないトラブルだそうでかなりイレギュラーな事故らしいですが、私自身としてはこの事故に立ち会えたことでボイラーマンとして貴重な経験を積むことができたのでラッキーだったなと思います。