【概要】
ボイラー・タービン主任技術者(略してBT主任)は火力、原子力発電所など一定規模以上の電気工作物を保有する事業者が電気事業法に則り選任しなければならない必置資格で、電気主任と同じく電気工作物の保安監督を行うための資格です。
選任されているBTは組織上電気主任技術者と同じ立場であり、社長・所長の次に位置する権限を持つので、大抵は組織の管理職クラスの人が選任されることが多いです。
第1種と第2種に区分されており、第1種では全ての設備、第2種では最高使用圧力が5.88MPa未満の汽力設備や原子力設備、ガスタービン設備の選任者になることが可能です。
区分は分かれていますが試験で取得する資格ではなく、どちらも実務経験での申請のみとなります。
【取得方法と難易度】
BTを取得するために必要な実務経験の年数は下記表の通りです。
〇ボイラータービン主任技術者に必要な実務経歴
学歴 | 第1種 | 第2種 |
①学校教育法による大学(機械工学) (又はこれと同等以上の教育施設) |
[6(3)] | [3] |
②学校教育法による大学 (又はこれと同等以上の教育施設) |
10[6(3)] | 5[3] |
③学校教育法による短期大学(機械工学) (又はこれと同等以上の教育施設) |
[8(4)] | [4] |
④学校教育法による短期大学若しくは高等専門学校 (又はこれと同等以上の教育施設) |
12[8(4)] | 6[4] |
⑤学校教育法による高等学校(機械工学) (又はこれと同等以上の教育施設) |
[10(5)] | [5] |
⑥学校教育法による高等学校 (又はこれと同等以上の教育施設) |
14[10(5)] | 7[5] |
⑦学校教育法による中学校 (又はこれと同等以上の教育施設) |
20[15(10)] | 12[10] |
⑧一級海技士(機関)、特級ボイラー技士、エネルギー管理士熱分野 又は、技術士(機械部門に限る)の2次試験合格者 |
[6(3)] | [3] |
(1)第1種の必要経験年数は卒業後のボイラー又は蒸気タービンの工事、維持又は運用に係わった年 | ||
数です。[ ]の年数は、必要年数のうち発電用の設備(電気工作物に限る。以下同じ。)に係わった年 | ||
数で、( )の年数は[ ]のうち圧力5,880キロパスカル以上の発電用の設備に係わった年数。 | ||
(2)第2種の必要経験年数は卒業後のボイラー、蒸気タービン、ガスタービン又は、燃料電池設備(最 | ||
高使用圧力が98キロパスカル以上のもの)の工事、維持又は運用に係わった年数です。[ ]の年数 | ||
は、必要年数のうち発電用の設備に係わった年数。 | ||
(3)⑧に該当する者の必要経験年数は、免許等の交付を受けた後の年数。 |
この資格を最短で取得するなら、機械科大学卒業後またはエネルギー管理士熱分野や特級ボイラー技士等を取得後、第2種なら発電設備に3年以上の工事、維持、運用の実務経験がいります。
第1種ならそれに加え更に圧力5,880kPa以上の発電設備の工事、維持、運用に3年以上携わる必要があり合計で6年の実務経験がいります。
大学の専攻分野についてはどうしようもないし特級ボイラー技士は取得までに最短7年掛かる(1級ボイラー技士取得に2年、そこから5年の実務経験)ので、機械科大学出身者以外でBTの取得をなるべく早くしたいと考えているなら、エネルギー管理士熱分野を早めに合格しておく必要があります。
個人的難易度を5段階で表すと
(5:難しい 4:やや難しい 3:普通 2:やや簡単 1:簡単)
1種、2種ともに
1~5・・・簡単だったり激ムズだったりする
これがどういうことかと言いますと、そもそもこの資格には試験というものが存在せず、取得に必要な実務経験を積んで産業保安監督部への申請を行えば、極端に言えば誰でも取得できます。
ここで重要となるのは
「どの担当に申請するかで難易度がガラリと変わる」
という点。
これは1種、2種の区分に関係なく、本当に産業保安監督部の担当によってその難易度が変わります。
通常BTの申請は
実務経歴書の添削→問題なければ担当と面談し後日申請
という手順を踏みます。(2022年現在はコロナのため面談はなし)
そして担当によって、この実務経歴証明書の添削の際にメール数回のやり取りだけで良かったり、逆に実務経歴書の添削に電話でとんでもなく面倒なことを言われ何回も再提出になったりします。
私が初めて申請を出した際の担当がすこぶる面倒な人で、私も修正依頼を電話で1時間以上言われ何度も再提出を食らいました。
また、私のほかに2種の申請をしていた同僚は約1年掛かりで取得していました。
逆に私の職場の部長が元いた関東地方の担当はとても簡単だったらしく、当時BTをしていた部長の部下を数人連れて行って、書類審査と面談を同時に行ってもらいその日の内に通過させたという話も聞きました。
そしてその後、私の地区の担当が変わった後に再度BTの申請をした際
なんともあっさりと1種BTを取得
前担当とのあの無駄なやり取りはいったい何だったのか・・・
ということで、この資格を楽に取得できるかどうかは
「申請を出す地区の保安監督部の担当次第」
で決まるといっていいでしょう。
もし申請を考えている人で近くに保安監督部とやり取りしている人がいるなら、担当の噂を聞いておいた方がいいと思います。
【動機】
ボイラーマンを名乗るこの私が、ボイラーという名の付く3大資格
「特級ボイラー技士」
「ボイラー整備士」
「ボイラー・タービン主任技術者」
のうち、唯一取得していない資格だったため。
そしてやはり発電所に身を置く者としては、電気主任技術者と同じく取得を目指すべき最終目標だった為。
私の会社ではBT主任者はずっと嘱託のおじいちゃんが毎年代わる代わる選任されており、会社側が若手の社員にBT取得を推進していたこともあって、私がこの資格を取得したいと言った際に会社側からのバックアップ(書類の購入や申請費用立て替え等)があったことも取得に踏み切った要因の一つです。
【勉強方法】
申請で取得できるため特に必要な知識はないですが、コロナ前は担当によって面談がありました。
その時に細かいところまで聞かれることがあり、更に本人の経験で最も弱い部分を敢えて突っ込んでくる人もいたとのこと。
例えば、保全をやってきた人なら運転について、運転員をやってきた人なら保全について、あとは保安規定の中身や各検査の概要等・・・
ただしこの面談で答えられなかったからと言って不合格になることはよっぽどなく、BT持ちの部長が言うには
「事前の書類審査に通ってる時点でほぼ取得出来たも同然だから、面談で答えられなくてもあとでちゃんと調べといてくらいに言われるだけだよ」
とのことです。
まぁこれも多分担当のさじ加減だと思います。
また、この資格を取得しようとする人は、BTに選任されるべき人を会社や上司が選抜して取りに行かせるということがほとんどだと思われます。
そういった場合は現役のBTに色々教えてもらいながら申請することが出来ますが、私の場合は会社が推奨しているだけでBTに選任されるわけでもなかったのでほぼ独学で申請していてけっこう手探りな部分も多く苦労しました。
一応ボイラー・タービン主任技術者がやるべき職務や各種手続きなどがまとめられた本が火力原子力発電技術協会より発行されているので、私はこの書籍を見ながら独学で勉強しました。
おそらく現状でこの資格に関する書籍はこの本だけだと思います。
値段が12000円と高額なので、私は会社費用で購入しました。
これから初めて実務をやっていくという人についてはまぁまぁ役立つものだと思います。
【実務経歴証明書の書き方のコツや注意点】
この記事を見ているということは私のように趣味でこの資格を取得しようとしている変人の可能性が高いわけですが、そんなボイラー変態同志のために実務経歴証明書の書き方や私が書類審査で突っ込まれた内容をざっと書いていきます。
ただし、これも全て所轄の産業保安監督部の様式やルールの違い、そしてなによりその時の担当によって突っ込まれる内容は様々なので参考程度に見といてください。
・実務経歴証明書の職務内容欄について
発電所運転員の場合の書き方としては
1、概要
○○会社運転員として右記発電用ボイラータービン設備の運転業務を担当したこと、その期間中のBT主任の選任者の氏名と選任期間を記載。
2、勤務体制
交代勤務なら何班何名体制で各直何時から何時までなのかを記載。
3、日常業務内容
基本的に毎日行っている業務を出来るだけ具体的に記載。
「日常監視業務」
蒸気の圧力温度やドラム水位など、どこを主として監視していたかを具体的に記載。
「日常点検業務」
どういった設備をどういった項目について点検したか具体的に記載
(例:給水ポンプの吸込、吐出圧力、軸受温度、電動機の異音振動の有無)
どちらの項目も異常が見られた場合にどういった対処をして誰に報告したかも記載します。
4、定期業務
毎日では無いものの、毎月・毎年必ず行うような業務について記載します。
例えば「グリスアップ作業」「未使用機器保守運転」「ポンプ切り替え作業」など。
また定期点検で行われる「ボイラータービン設備の起動・停止操作」もこの定期業務となります。
ちなみに安全弁封鎖試験や水圧試験と言った定期事業者検査で行った操作項目に関してもこの定期業務の項目に該当します。
私は最初2~4年に一度なので不定期業務だろと思って記載してましたが定期業務に記載してくれと修正されました。
5、不定期業務
突発的なトラブル、自然災害対応など、発生時期が不確かなイベントに対する業務内容はこちらに記載します。
全てのトラブル対応について記載していたらキリがないので、一番対応の多かったトラブルについて1個記載しておけば十分だと思います。
6、その他業務
他にトピックとして記載する実績や内容があればこちらに記載します。
例えば「手順書を制定した」「設備改善案により省エネを行った」
役職者であれば「こんな事象の際に部下に指示を行った」「新入社員へこんな教育指導をした」などが該当します。
各項目で複数の段落に分けて記載する内容がある時は、1→(1)→①→(a)の順に記載します。
例えば定期業務の項目では
4、定期業務
(1)グリスアップ業務
(2)保守運転業務
・
・
(5)ボイラータービン設備の起動停止操作業務
①起動操作項目
②停止操作項目
(a)誘引ファン停止操作
(b)重油バーナ点火操作
・
・
と言った感じで記載します。
・実務経歴証明書の書き方はその地区の様式に従うこと
私は2022年度に提出をする際、事前に現職BTをやってる人に添削をしてもらいその書式で提出しました。
しかしメールで
担当「書式が違うため事前にホームページで様式をダウンロードし、その書き方に従って書いてください」
と返答されました。
後でわかったことですが、当時の我が社のBTがいた地域とこちらの地域でのBT主任技術者の実務経験証明書の書き方は少し違うようでした。
なので、担当によるものかもしれませんが、なるべく自分が提出する予定の管轄の産業保安監督部のホームページに載っている書き方を見習って書いておいた方が無難だと思います。
・組織図
どちらの担当の際も必ず実務経歴当時の会社組織図を提出しなさいと言われました。
注意点として、その組織図は
「自分で作ったもので良いのか」
「会社の正規の組織図であるか」
「保安規定に載っているものであるか」
のどれを提出するかを確認したほうが良いです。
なぜかというと、一人目の担当の時に会社の正規の組織図を提出した際
「なんですかこの組織図は?ちゃんと保安規定に添付されている保安上の組織図を提出しなさい」
と言われました。イラッ
でも二人目の時は
「保安規定の組織図のような簡易的なものではなくて、申請者が実務経験時にどこ所属で体制上どこに位置するかが具体的に分かるような組織図を作成して提出して下さい」
と言われました。
要は担当によってどんな組織図を望んでいるかが違うんですね。
これを確認しないと再提出するハメになるので注意です。
また、実務期間中に組織が途中で変更されている場合、この組織変更前後の2枚提出する必要があります。
更に役職や部署変更があった場合も組織図で別途記載している体制表に自分がどの部署のどの立場であったかを具体的に記載します。
これらを踏まえて私が実際に作成した組織図を例として
このような感じでExcelで作成しました。
・途中で組織変更や役職が変わっている時の経歴証明書への記載方法
「役職名」欄に以下のように記載します。
一番最初には
○○株式会社△△部××課
と必ず会社名から記載してください。
次に、職務内容そのままで役職が付いている場合は
令和○年○月より△△部××課係長となるも職務内容に変更なし
異動で部署変更があった場合は
令和○年○月より△△部▲▲課となる
組織変更があった場合は
令和○年○月より組織変更により□□部◇◇課となるも職務内容に変更なし(詳細は別紙組織図を参照)
といった感じで記載します。
・BTの選任期間は日付まで明確に記載
これも両担当から必ず確認されましたが、自分の実務経験中にBTの選任者が途中で変更されている場合は選任者の選任期間と氏名を正確に記載する必要があります。
なので選任・解任届などで事前に調べておいた方が良いでしょう。
また、BTの名前は苗字だけでも良いという担当とフルネームで書いてくれという担当がいたので念のためフルネームで記載しておいた方が良いかもしれません。
・実務はとにかく具体的に
どちらの担当の際もちょっとでも曖昧な記載内容はすぐ突っ込まれました。
設備を点検をしたという記載でも「どのような立場で」「どの頻度で」「何を目的に」「どんな項目について」「どんな記録をしたか」「異常発見時の対応」「最終的に誰に報告したか」なんかを細かく書かされました。
なので運転員が行う巡視点検を記載するなら
運転員として毎日現場機器の異常の有無を確認するための巡視点検を行い、この結果を日常巡視点検記録簿へ記入した。異常が見られた際は上司へ口頭にて報告を行った。
点検項目
ボイラー設備 ○○の破損漏洩の有無、○○の異音振動の有無・・・・
タービン設備・・・・
発電機設備・・・
といった感じに記載する必要があります。
【取得までの道のり】
別記事に詳細はあるので時系列で書いていくと
1回目の挑戦時(2020年)
まずは申請に向けて必要な経験年数を満たしているか確認しました。
実務経歴に問題無さそうだったので、フォーマットに則り実務経歴証明書を作成。
産業保安監督部へ連絡しいざ申請。
この時は知りませんでした。この後地獄を見ることに・・・
申請申し込み、実務経歴証明書を送付
→2か月後:担当と初電話で修正のやり取り。クソみたいな担当にめっちゃ色々言われるも、何とか修正し再提出
1か月後:担当と再度修正のやり取り。前回の修正箇所をまた修正しろと言われ大混乱。
2週間後:またまた再修正。再修正した箇所の再修正に気が狂いそうになるも何とか再々々提出。
1週間後:4度目の再修正にブチギレそうに。そして前職の色んな書類を提出しろという無茶ぶりに一旦諦める。
合計:約5か月
結果:惨敗
担当の度重なる修正依頼と無茶ぶりに一旦諦めました。
2回目の再挑戦時(2022年)
前回のイカれた担当がついに変わったとの噂を受け、再申請に向けていざ電話。
結果、めちゃくちゃまともな人に代わっていたので超安心。
実務経歴証明書をメールで申請
1か月後:担当より修正依頼のメール。すぐ再提出
3日後:再提出の証明書について再度修正依頼。すぐ再提出
1週間後:申請期間の内、教育期間についてNGを食らったためいったん保留。
再申請で簡易的な修正を受けた後、書類審査合格。
1週間後:電話でリモート面談。主に実務経歴について質疑応答を行い無事合格。
書類を送付し3週間ほどで免状届く
合計:教育期間NGでの待機期間を除けば1か月半
結果:合格!
2年越しのリベンジや教育期間でのNGによる待期期間などを経ての取得なので私の中ではかなり長丁場の戦いなイメージでしたが、2回目は実質1か月半程度で指摘事項もほとんどなかったのでけっこうあっけなく終わっていました。
【最後に】
この資格は発電所にしか必要ない上に試験がなく書類審査と面談で取得するという物なので、同じ主任技術者の電験と比べても、とにかく情報が少なく取得しようとした時は情報集めに苦労しました。
なのでこのブログの取得までの記事が、趣味でBT主任技術者を取得しようとしている変態ボイラー野郎達の助けに少しでもなれば幸いです。
どの資格にも言えることですが、発電所には必置であるこの資格は特に
「選任させるために会社が取得させる資格」
という意味合いが強く、趣味で取得しようとすると
・保安監督部との書類審査のやり取り
・面談
・会社への証明印や割印の申請
など、実務経験を満たしていても結構ハードルの高い資格だと思います。
そもそも取得するのが書類審査や面談のみというのは立場や責任を伴う資格にしてはちょっと納得いかない取得方法だし、出来れば多少難しくても良いので試験でも取得できるようにしてもらいたいものです。