私がボイラーマンだ

3度の飯よりボイラー好き。ボイラーをこよなく愛する火力発電所勤務の変態ボイラーマンの日常を綴ったブログ

バイオマス発電所についての色々な話~人員・給料・将来性など~

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【最初に】

今回は現在ボイラー業界で流行りのバイオマス発電所についてのお話です。

 

私のブログや、ツイッターを始めてからのダイレクトメッセージで、ちょくちょくバイオマス発電への転職を検討されている方から相談を受けるようになりました。

私はボイラー以外の業界や経済的な話には疎いのですが、結構みんな興味あるようなのでこのブログで私個人の見解を語ろうと思います。

※そういうボイラーマン同志達のお悩み、相談は大好物なのでこれからも気軽にどんどんしてもらってOKです!

 

業界では有名かもしれませんが、少し前に固定価格買取制度、通称「FIT制度」という再生可能エネルギーで作られた電気を固定価格で買い取ってもらえる制度が誕生しました。

 

再生可能エネルギーというのは例えば「太陽光」「木質チップ」といったもので、制度が出来た当初は太陽光発電の買取価格が40円/kWと高額であったため、それはもう太陽光パネルが繁盛しました。ちなみに乱立している今は20円以下まで値下がりしてます。

 

まぁこれによって山切り崩して設置したり反射光なんかが近所トラブルになったり色々問題が出てきたわけですが・・・

 

そんな中でもバイオマス発電は燃料に木を破砕した木質チップというものを使用する火力発電所であり、太陽光と違って天候関係なく常に安定した高出力を出せる「ベース電源」として優秀なため、各企業がこぞって申請し建設を行っています。

発電所関係の求人を見ても、とにかくこのバイオマス発電業界の求人は最も多いかもしれません。

 

私の前職ボイラーも工場からの廃棄物を燃料とするボイラーだったので、これもいわゆるバイオマス発電みたいなものでした。(自家発電なのでFIT申請はしてませんでしたが)

バイオマス発電所はFIT制度が出来る前は自家発ボイラーくらいでしか運転している箇所が無かったため、発電所が建設ラッシュになっていた当時は関係者からの質問や見学依頼がとても多かったです。

 

私たちも逆に色んなバイオマス発電を見学させてもらったり話を聞きましたし、実は転職活動の中でいくつかバイオマス発電所を受けているので、そんな中で私がバイオマス発電についての現状や感じていることをいくつか語りましょう。

 

【人員事情について】

運転員もスタッフもとにかく人手不足。

厳密にいうと、人はいるけど「経験者」がいない。

元々発電所なんて数えるほどしかなかったところに建設ラッシュが始まったんで、そりゃ発電所運転員なんてそうそう転職してこないので仕方ないですね。

 

運転員全員が他業種の未経験者という所も多く、場所によっては工業高校の卒業生をかき集めたり、別工場の人員を運転員にしたり等、

「誰でもいいからとにかく人数揃えとけ!」みたいな感じの所ばかりです。

 

また、その運転員を束ねるスタッフもまた未経験者という所も多いです。

バイオマス発電所電気事業法が適用されるので、規模に応じた「ボイラー・タービン主任技術者」と「電気主任技術者」が必置となります。

しかし、こういったバイオマス発電所に選任されるBTと電気主任に多いのが大企業からの定年退職者の雇用です。

 

どのバイオマス発電所に行っても、たいてい大手電力会社や大手メーカーで長年やってきたおじいちゃん達がBTと電気主任に選任されています。

 

ですが当然このおじいちゃん達もバイオマス発電所は未経験。

だけど前自分たちが勤めていた大手企業の考え方が根付いているため言ってることがいまいち会社の現状に当てはまっていない、という会社がとても多くどこも苦労しているようでした。

 

未経験者ばかりでも大手出身のおじいちゃんでも、みんな人格まともなら全然良いんですが、そんな運の良い会社はなかなか無いと思います。

 

【給料事情について】

どこも給料は正直低いと思います。

 

バイオマス発電所は発電出力と燃料価格で発電所の売り上げがほぼ決まってしまうので、儲けようと思ったらよっぽど大きな省エネ対策を行うか従業員の給料を低くするかの2択になってしまいますからね。

 

具体的な額で言うと、未経験30~40代では300万台、経験者でも400万、500万あれば相当良い方だと思います。

実際経験者の私が受けたバイオマス発電所も、一番高くて450万が限度でした(しかも運転職採用ではなくスタッフ職採用で)

 

※昔受けた新設バイオマス発電所の運転職採用時の内定通知書に記載されていた年収例。

自分で言うのもなんですが、発電所運転員の経験者で資格持ちの私ですらこれです。

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提示される給料の内訳としては、運転員なら最低限として

基本給+深夜割増手当

が入ります。

 

また、会社によっては「資格手当」、「家族手当」、「住居手当」などや

役職があるなら「役職手当」が追加されます。

 

ボーナスはどこも少なめで、「1~3か月分」くらいあれば御の字、場所によってはボーナスなしの所もいくつかあります。

 

よって、平均的な給料でいうと

月25万~30万×12か月=300~360万程度

ボーナスがあるならここに+20~50万円程度が加わるのが一般的なバイオマス発電所の給料になってくると思います。

もし運転員でこれ以上貰える所があれば間違いなく当たりでしょう。

これを低いとみるか問題ないと思うかは人次第です。

 

個人的には独身とか配偶者が稼いでるとかならまだ何とかなると思いますが、子持ち専業主婦の家庭の方が未経験でこの業界に行くのはよっぽど給料良い所を探さないとちょっと厳しいと思います。

 

ちなみに給料高めのバイオマス発電を狙うなら、田舎より都心近い所、なるべく発電出力大きめの所、運転を委託会社に依頼するのではなく自社で採用している所なんかで探せば未経験でも割と400万以上いくとこがあると思います。

 

【勤務体制について】

24時間稼働なので運転員であれば当然交代勤務になります。

交代勤務は2交代と3交代があります。

これはどちらが採用されやすいとかは無いですが、イメージとしては2交代の方が多いんじゃないかなと思います。

 

なぜそのイメージかと言うと、とあるバイオマス発電所の上層部との会話の際

「2交代で他の社会人より休日多いんだから、その分給料低くても納得してもらわないと」

という言葉を別会社の別の2人から、全く同じような感じで言われたからです。(前述の内定貰ったところ)

 

要は運転員の給料を低くしている理由づけのために2交代を採用している所があるってことです。クソですね。

 

【将来性について】

バイオマス発電所はFIT制度により20年間、作った電力を一定価格で買い取って貰えます。

 

これは経済情勢によって左右されず常に一定値で買い取って貰えるメリットのある反面、どんなに発電所が経済的に厳しくても電気の買い取り額を値上げしてもらうことができないデメリットもあります。

 

そして何より「20年後の先行きは全くの未知数」という所が最大のデメリットです。

そんなんどこの会社も一緒だろっ!

と思える方は別に良いです。

でも40代なら定年までにギリギリ逃げ切れますが、20~30代でこの業界にくると最悪40代で失業することになる不安が常に付きまとう可能性があります。

 

バイオマス発電所の上層部は「そんな簡単になくなることなんて無いから大丈夫」なんてお気楽に言ってくれると思いますが、所詮その頃にはそいつら全員いませんから、都合良いこと言ってるようにしか思えません。

 

そもそもバイオマス発電所が今まで作られていなかったのは、FIT制度がなければ効率が悪すぎてそもそも事業として成立できないものだからです。

私の前職のボイラーも蒸気の熱源利用があったから発電所として成立出来ていただけで、発電メインではとても儲けは出せません。

だってよく考えてみて下さい。発電端効率30%の高効率発電!なんて言ってる所がありますが、

逆に考えれば燃料入れて作った熱の、たった30%しか電気に変換できないんですよ?

そのまま熱利用すれば90%近い効率で利用できるのに比べてとんでもなく効率悪いですよね。

 

 

そして一番の問題が、発電所が乱立したことで起こっている「燃料不足」です。

少し前に読んだ新聞の記事に、この問題が顕著化している地域ではすでに発電出力を当時の計画より抑えて運転せざるを得ない所、海外から輸入した燃料に頼らざるを得ない所などがあるようです。

今の現状でこれならそもそも20年も持つのかどうかすら怪しいですね。

 

ちなみに日本より早くFITを導入したドイツでは似たように様々な問題で何度か制度が改定されています。

日本とは森林面積などに違いはあれど、そのうちこれに近い状況になるではないかと言われています。

www.jwba.or.jp

 

FITが終わって高価格の買取が無くなった挙句、燃料は値上がりしてしかもどこも取り合いで供給不足・・・

20年で十分儲けもできたことだし、普通の企業ならそんな後先の無い発電所なんて畳むのではないでしょうか。

 

【最後に】

総評としては

・40代~50代の人で給料にそこまでこだわる必要のない人

・単純に火力発電所の経験を積みたい。その後は転職しても構わない

・とにかくボイラー好きだから発電所で働きたい。むしろ金なんていらん。

というような人は特に問題ないと思います。

ですが、まだ20~30代の方、長く同じ会社で働きたいという人がこの業界にくるのはこれまでの説明にあるようにけっこう不安要素の強い業界でもあるので、私としてはあまりお勧めできないかなぁ。。。

 

どうしてもバイオマス発電所が良い!

という方は、運営をバイオマス発電所単体でなく他の事業者が行っている所をお勧めします。例えば工場を持ってる会社の敷地内で別途バイオマス発電所を建設しているとか運転員は派遣会社から委託しているとか・・・

そうすればバイオマス発電所単体の事業が無くなっても最悪失業するというリスクは防げます。

 

それ以外の方は、私もそうですが工場の中にある「自家発電所」や「熱源供給併用発電所」を狙うのがおすすめです。

こういった発電所であればFIT制度関係なく、工場ある限り発電所もなくなることは無いのでバイオマス発電所にあるような不安要素がないし、給料もその工場ベースで支給されるためそれほど低くないからです。

発電所にこだわりがないなら化学プラントや製油プラント、製紙プラントとかのボイラー設備とかでもいいですね。

 

またはバイオマス燃料ではない「石炭火力」「ガス火力」や給料低くていいなら「ごみ焼却場」なんかの方がリスクは少ないと思います。

 

一応、全国で建設ラッシュになったおかげでどこでも転職しやすいし経験生かせる発電所がたくさんできてくれたことは、個人的には喜ばしいことなんですけどね。

私も40歳過ぎたくらいだったら地元のバイオマス発電でのんびりやっても良いと思ってます。